カイヤン雑記帳

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【社会人学生AdC】社会人博士を短縮修了した話【12/2】

おはようございます,またはこんにちは,またはこんばんは.カイヤンです.

今回は社会人学生AdCの12月2日担当の記事です.

主催者にして社Dとして東工大同期の望月さんから引き継いで2日目を担当します.

2年目であった昨年度の同AdCに引き続いて,社会人博士3年目のお話をしようかと思っていましたが,

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

chijan.hatenablog.jp

なんと3年目は3か月で終わらせることができました.すなわち9か月の短縮修了です.わーい.

3年目についての話は審査会のことしかありません. ですので,本記事では今回の博士課程の概要的な振り返りと反省点・感想戦,そして取得後しばらくの状況を主な内容にしようかと思います.

博士課程の振り返り

2年目12月まで

ここまではすでに扱った記事があるのでさらっと行きましょう.簡単にまとめると,

  • 博士号が欲しい
  • 修士卒時点で業績十分かつさらに未採択の持ち駒成果もあり,社会人1年目で更に成果を一つ増やしていたので博士論文にできそう
  • そうだ進学しよう
  • 1年目は社会人2年目になって急に忙しくなったこともあって研究成果も出せず単位回収もあまりうまくいかなかった
  • 2年目はCOVID19体制による仕事と大学双方のオンライン化によって単位取得がしやすくなったのはもちろん,ラボとの連絡も容易くなり研究も進んだ

となります.詳細は以下の2記事にそれぞれD1D2の12月に書いたAdCとして記されています.

chijan.hatenablog.jp

chijan.hatenablog.jp

2年目12月から3年目の修了まで

D2時のAdCに記してある通り,2年目の秋時点で業績数が十分あったので早期修了を検討し始めました. 身近な人(サークルの先輩)が早期修了に成功していたのも目指そうと思った理由の一つです. ただ,1年の短縮をするには11月ころに予備審査日程が来るようにする必要があるようで,当然その時には博論第1稿が必要になります. ちょうど2020年3Qに仕事が忙しくなっていたこともあって2021年3月修了は断念しました.となると自然に1Qずらして6月修了を狙いたくなってきます.

2021年6月修了を目標に定めたのはこのときです.この場合は予備審査当日が2月になる形ですので博論を書ききれると踏みました. 実際この日程であればむしろ余裕をもって書ききることができました.

予備審査

さて博論の審査プロセスですが,弊学弊系弊コース(弊がくどい)では中間発表などはなく最初から「一般的な審査プロセス」に乗っかる形になります. 「一般的な審査プロセス」では予備審査,公聴会,最終審査を経て合否がほぼ決まり,後は教授会などに審査結果が伝わって承認されるというウィニングランになります. すなわち,博論の合否を決める審査員の先生方に最初に博論の研究が知れ渡るのは予備審査ないしそのための博論提出のときです.

一般論として,予備審査が一番厳しい場になると聞いていました.博論の内容に初見であるがゆえにいろいろ聞きたいことが増えるのは自然ですし,修正がまだ効きやすいうちにコメントしておくのも有用だからだと思われます.形式としては発表は45分~50分,質疑が30分くらい.発表後,主査+審査員が公聴会に進めるかどうか検討する形です.

カイヤンの場合はふたを開けてみると質疑は20分くらいで終わり,終始穏やかな雰囲気で終わりました. ただ,修論発表より質問が鋭いのは間違いないというか,「やっていないこと」として重要そうなものがあればそれは出来ないのかを聞かれたりしました.返答として,今回の研究ではスコープ外としている,でも問題ありませんでした.

上でも書いたように,審査員の先生方にとって初見となるがゆえに,詳細な内容よりも方向性について理解してもらえるような発表が望ましいかもしれません. 事実,カイヤンも理論研究でしたが,証明をどうこうというよりなぜこの問題を解くのが大事かについて時間やページを割いて説明する発表を進めたのが効いたようでした. 指導教員とのデブリーフィングでも,うまく方向性や動機を審査員の先生たちに伝えることができていたのが穏やかな予備審査になった理由だろうとのことでした.

公聴会

「一般的な審査プロセス」の第二段階が公聴会です.いわゆる発表会であり,卒論や修論のように学内なら誰でも聞けるほかに,学外の人も聞けるような形になります.といってもオンライン化もあって学外は基本的に来ないどころか,同じ学系の人すらほとんど来ない状態でしたが.

予備審査時に特に問題がなかった場合は,予備審査と同様の発表を行うことになります.発表時間も同様なのでほぼ同じ資料を使うことができます. 逆に,予備審査時点で残してしまった質問については発表の最初に回答する慣例があり,そのための資料作成も必要とされています. また,予備審査にあたって博士論文を審査員に提出しますが,予備審査を受けて更に修正した場合は公聴会向けとして第2稿を提出します. ここまでの博士論文は公的なものではないため,比較的容易にreviseしていくことができます.

カイヤンの場合,予備審査がスムーズに進んだために特に問題はありませんでした.2回目ということもあって細かい質問が増える印象です.また,審査員の専門分野が関わってくるようなキーワードが出てくるとそれについて質問も来たため,それぞれ備えておくことが望ましいと思われます.ただし,その場合は博論が扱う分野と異なることも多いために論文の質担保としては関係のない質問になることも多いですが,それゆえに答えにくくて答えられなくてもナーバスになるタイプの質問ではないと理解できます.

ちなみに,公聴会は3月末でした.そのため,D3の間にあった大きなイベントは次の最終審査のみです(だから3年目振り返りではなくこのような記事にしました).

最終審査

実質的な最後の審査の場がこの最終審査です.最終試験とも言いますが,実際に数学や英語の院試みたいな学力を問う問題が出題されることはほぼないようです(英語で論文発表や学会登壇をしていれば).

名前とは打って変わって,一般論としては,ここまで来れば審査員は一定以上に博論の研究を理解しかつ質を認めているので消化試合感があります.そのため,そこまで強い質問は(重大な瑕疵があって気づかれた場合を除けば)ないことが多いと聞いていました.

しかしそこまでうまくいくわけではないのか,カイヤンは違いました.これまでの審査で一番クリティカルな会がこの最終審査でした. といっても研究内容そのものというより,5年後への展望だったり手法開発への応用性といった,論文とあまり関係ない範囲のものがやや答えにくく,トーン的にも詰め気味に問われた質問でした.これは12/1担当の望月さんの記事でも大型予算をとるつもりで展望を書けという話が出ているように,博論における今後の展望は相当長距離まで書く必要があるからかもしれません.カイヤンは少し風呂敷を多めに広げる程度でした.

感想

完走した感想ですが,やはり手元に持ち駒がある状態でよーいスタートできたのが大きかったです.実際,課程中に上げられた成果は「かなり強い結果」(学会で表彰対象)であったものの数としては1つであり,課程中に上がった(not 採択された)成果だけで博論を書くには1年の追加もやむなしだったかもしれません.なお採択数という意味では課程中に雑誌論文3本があるため,課程外の「業績」は弾くタイプ*1の制度でも対応できる形でした.

※成果と業績について:成果は研究成果そのもので,それが論文という形になって査読を通過・採択されることで業績になる,という単語の使い分けをしています.

反省

反省点は単位集めと博論執筆時期の調整や持ち駒の使い方にあります.

単位集め

東工大は24単位と比較的多くの単位取得を博士課程に課しています.12単位は3年かければラボゼミでほぼ自動的に集まりますが残り12単位をどうにかしなければなりません. この12のうち6が必修科目で埋まることになります.しかし残りの6は何らかの講義を受けなければ難しいことが多いのです.

カイヤンの所属していた学系では4つの発表一発勝負の科目があり,それを用いて4単位埋めた後は全学科目を必修より多めにとることで対応しようと思っていました. しかし残り2単位はどうしても定期的に講義に出席しなければならないものばかりで,些か不安が残りました.また,D1の時期に研究だけでなく単位集めも難しいことになってしまい,D2以降の単位取得負荷が大きくなる立ち回りになってしまいました. 結果的にはCOVID19によってオンライン化され,単位集めが非常に容易になったことを利用してD2のうちに一気にかき集めることに成功しました(朝一の科目も5秒で出社できるオンライン体制なら早起きさえできればよい).ただ,オンライン化がなければこのような立ち回りは難しかったと思います.当然,入学時にはこんな情勢になるともオンライン化が他の理由で進むとも予想していたわけではなかったため,単位集めについて少し不安要素を残した形で突撃することになったのは反省点です.

本AdCの目的に即して知見としてまとめるならば,社会人博士を取るときは単位取得の目途も事前に考えておきたいということです.

博論執筆時期の調整

今回,通常より9か月のタイム短縮に成功していますが,キリ良く1年短縮もできたのではないかと思っています. 3月修了の博論提出期限シーズンに案件の繁忙期が直撃したのが1年短縮できなかった直接的な理由で一見どうしようもないですが,実は手持ちの業績が数として揃っているかという点であれば2020年3月時点ですでに論文3本国際会議発表1本で,ここから博論をある程度書き進め始めることもできたはずでした. 課程中に上げた成果が欲しいという面子・沽券にこだわって・せっかく進学しているのだから環境を活用したくて,この辺りの動きが遅かった気がします. 一応この間接的な理由についても言い訳をしておくと,2020年2月にプライベートでショッキングなことがあって自分の安定度がごっそり削れていて活発になりきれなかったのもあるかもしれません.ただ,この後の2020年7月に上述した「かなり強い結果」を出したことといい,むしろアカデミックな脳みそが活性化するジンクスのあるタイプのショッキング事件だったため,これも甘いかもしれません*2

知見としては,博論執筆準備は早ければ早いほど良い,でしょうか.

持ち駒の使い方

幼女戦記やらハンニバルのローマ攻めせずやらでも出てくる「勝利の使い方」の間違いとでも言いましょうか,持ち駒の活用方法にも反省点があります. 確かに,修士の時の2本目が就職後にまで跨る1年にも及ぶ査読とリバッタルの末に当落線上にあるけど落とすとJMLRに言われたのはトラウマ級かもしれません. そして落とす理由になった応用性の弱さを補ってACML2019のJournalトラックに投稿すると,散々査読回答を引き延ばされたあげくわけわからない査読を返されて上塗りされたということもありました.

これによってML分野でもキラキラしてる場所の査読システムに極めて強い懐疑心を抱いたのですが,だからといってそれ以降に挑戦しなさすぎだったかもしれません. この後に出した2本の論文はいずれも修士時代より攻撃力のある成果だと思っていますし,うち1つはそれを基にした発表で表彰もされています(上記の「かなり強い結果」). 二重投稿は厳禁ですので,論文を落とされるとその査読と対応に使った時間がすべて溶けることになるため,博士課程という限られた時間に立ち回る場合は迂回も重要だと思います.とはいえさすがに「かなり強い結果」の方まで査読がまともなトップカンファの良心たるCOLTやALTすら避けて弊分野の強い論文が良く載っているジャーナル『Neural Networks』(Elsevier)に出すのはビビりすぎでした.博士取得RTAとしては良かったかもしれませんが,博士取得後を考えて名前を売る機会を少し損失したかもしれないという反省があります.博士取得後は麻雀をちょっと遊んでるんですが,789m789p679sXXXYYから愚形三色確定の聴牌(打6s)と良型三色壊れの聴牌(打9s)どちらを選ぶかの押し引きみたいな感じです(つまり一般論としては状況によります)*3.まあアカポス√はメインでは考えてなかったので良いと言えば良いんですがこれでも.Neural Networksはトップ級ジャーナルですし*4

知見としては,インパクトを目指すときは目指そう,となりますでしょうか.ほら,よくある博士課程tipsだといいから論文化しろというものが多いですからそこに少し正則化をね…….

取得後にあったこと

さて,足の裏の米粒なんて揶揄されることもある博士号ですが,無事取ることができました.それによって何か変化があったかについても書いておこうと思います. 一応,取得から半年弱立ってますし.

名刺アプデ

よくあるやつです.でもやっぱりうれしいですね.ただ会社関係では次の方がデカい気がします.

お賃金アップ

経緯とか制度の話は当然機密でできないんですが,結果だけ言えば博士をとったら固定費部分の給与が上がりました. いやこれはほんとうれしかったです.足の裏の米粒なんかじゃなかった案件でした.

お祝いの言葉

なんだかんだこれが一番うれしいですね.博士取得を報告するといろいろな方から温かい言葉をいただけました. こういうのはやっぱすごく報われたなあって気持ちになりますね.

最後に

最後になりますが,上でも書いたように会社と大学の迅速なオンライン化によって大変助けられました. 制度整備と維持に従事されたみなさまには頭が上がりません.本当にありがとうございました.

フォーマルな謝辞は博論にあるのでそれ以外に推しなどに謝辞を述べる場にしようかと思いましたが,友人や家族への謝辞は博論に記載していますし,私の推しは指導教員その人です.となると,博士課程中盤以降にドハマリして心の支えになった作品を挙げることになりそうですが,これは逆に枚挙に暇がなく,「書ききれない人たち」への謝辞すら博論に書いている状態なので意外とおふざけ謝辞する隙がなかったりします.

本AdCの次の記事はま氏さんです.実は相互さんでしたが,本AdCは初参戦のご様子3度目つまり毎年出していたようです,すみません.いったいどんな記事を書いてくださるのでしょうか

3日目の記事

ではまたどこかで!

*1:噂によると東大はこうらしい

*2:院以降は失恋すると定理が生えるジンクスがありますし,それまでも失恋後は学問にはげみやすかったです(学部の首席獲得など)…….

*3:『新科学する麻雀』によれば両面聴牌が2600以下のときの2ハンアップの愚形ならそちらを選ぶ方が期待値的に良いことが多いらしいです

*4:トップカンファに載らない研究は無価値という人がML界隈はたまにいますがトンデモ権威主義者では????